ChorLilias−コール リリアス−

ウィーン演奏旅行記B 〜新春コーラスコンサートinウィーン2013〜






1月20日(日) 楽友協会で本番

 ついに、楽友協会での新春コンサート当日。興奮しているのか単なる時差ぼけなのか、朝4時半に目が覚めてしまった。ここまで頑張ってきたみんなの足を引っ張らないように・・・なんて思い詰めると、緊張して何かやらかしてしまいそうなので、とりあえずその思いはパスポートと一緒にホテルのセイフティボックスにしまっておくことにする。

 朝9時、ホテルのロビーに集合。永先生からお言葉をいただいて、いざ出陣!



 バスに分乗して楽友協会へ。雪がちらちら降っており、空はどんよりと重たい。雪化粧した街並みはきれいだけれど、冬の間中こんな空だったら、バカンスで地中海へ飛び出したくなる気持ちもわかる。こんなお天気の中、お客さんは来てくれるだろうか、と不安になる。

 ところが、黄金のホールに入った途端、気分は一変。永先生のはからいで「客席に座って他団のゲネプロを見学する」という貴重な時間がいただけた。それは、客席からホール内をじっくり観察できる幸せな時間。撮影禁止なのが本当に残念だ。天井全体に天使が竪琴などの楽器を奏でている絵が何枚もあり、それぞれの周りに細かい彫刻が施されている。金色の竪琴のレリーフもある。そこから吊り下げられたシャンデリアが、壁面やステージの黄金を輝かせている。決してけばけばしくはなく、品のある輝き。壁面の柱はすべてギリシャ神殿のような女神像でもちろん金色。間にある出入り口は重々しい木の扉。正面のステージに目を向けると、バルコニーもパイプオルガンの周りも柱も金色に輝いている。白い壁を赤で縁どりし、柱は金。この3色はハプスブルグ家の色で、公式の場所に用いられるそうだ。(エーヴィゲの衣装も、白いスカートに赤と金のベルト!!)そして、本当に細かいところまで気を抜くことなくきちんと彫刻が施されていてため息が出る。

 今までテレビで見ていたウィーンフィル・ニューイヤーコンサート。その場所に今いるんだ、そう思うとなんだかとても不思議な気持ちになる。

 ゲネプロの持ち時間は25分間しかないため、曲ごとの立ち位置や動き方を確認することを重視。目印になる柱や板の線などを必死に探す。客席は日本のホールよりずっと明るくて、聞いている人がとても近くに感じる。そして、何より響きの素晴らしいこと!最新のホールはとっくり型とか階段状とかいった工夫がされているけれど、直方体のまっすぐなホールで、どうしてこんなにきれいに聞こえるんだろう?ホール中にある彫刻のおかげ?

 一つだけ困ったのは、ベタから合唱台に上がるための補助階段がガタガタしていたこと。2段ある階段は、なんと黒いガムテープで合唱台に止められており、接地面がまっすぐでないのか、人が上り下りするたびに「ガタンガターン」と音がするのだ。曲間の移動のたびに、舞台の上手と下手で「ガタンガターン×通過人数」が響き渡る・・・

 エーヴィゲのゲネプロの後、日本からの4団体とシューベルトブントの皆さんとで、「美しく青きドナウ」の合同練習。200人くらいがステージに乗ると、布池教会でのアベマリアの時のようにぎゅうぎゅう詰め。

シューベルトブントのみなさんから「コンニチワ」と迎えられ、指揮者のフリッツ・ブルッカーさんが、ピアノ伴奏に合わせて流れるように曲想を説明してくださる。みんな楽譜のドイツ語にかじりついたまま、ざっと全体を通した後、出だしの大きなテンポの揺れと、ラストの盛り上がり方を復習して、45分の練習はあっという間に終了。

 その後、シューベルトブントのゲネプロを見学して、客席での幸せな時間はおしまい。




 地下の控室で開演を待つ間、探検に出かけたり、玄関前で写真を撮ったり、「ドナウ」の暗譜を頑張ったり・・・

正面玄関の両脇の地面には、シューベルトやブラームスからフルトベングラーまで、ゆかりの(?)音楽家たちのサインがレリーフになって埋め込まれている。

 控室で直前の声だしと動きの最終確認をして、午後3時30分、新春コーラスコンサートの開演。

 エーヴィゲの演奏は2番目。舞台袖への通路で待機。通路のあちらこちらで、床から150センチくらいの高さに奥行30センチほどの棚が張り出している。気を抜いて歩いていると、ちょうど頭をゴツンとぶつける高さだ。(もちろん私はやってしまった。)よく見ると、ところどころ直径15センチくらいの半円が切られていて、足元と壁に傷防止の板が貼り付けられている。もしやこれは、ウイーンフィルの方々がコントラバスなどを立て掛けるスペースでは・・・そう思うと、頭をぶつけてしまった痛みもありがたいものになってくる。

 そんなことをしながら、いよいよ本番!「お留守番のみんなの思いも込めて歌おうね。」そう言い合って舞台へ。

 ステージに出ると、客席はゲネプロの時と同じように明るく、観客がとてもよく見える。バルコニー席も、2階、3階も満席だ。そして、何とも言えない温かい雰囲気。「遠いところをようこそ」「衣装、素敵だね」そう言ってくれている、ような気がする。

 以下、プログラムに沿って個人的なつぶやきを。(ここまでも十分個人的なつぶやきだけれど・・・)

<落葉松> 会場の温かい雰囲気のおかげか、アフタヌーンの時より落ち着いて歌えたと思う。客席で泣いている紳士がいたとか。言葉をこえて、情念を伝えることができたのかな。

<三地方の子守歌> 歌い終わった瞬間に、客席から「ブラボー!!!」の声。大きな拍手をいただいて、心の中でガッツポーズ。

<おてもやん> おてもやんの踊りに会場中がくぎづけになっている。バルコニー席から立ち上がり、身を乗り出して見ている人もいる。

<祝い唄 三つ> ここまでの演奏で、客席とステージの気持ちが、ぎゅーっと一つになってきているのが実感できる。こんな体験は初めてだ。みんなも「営業スマイル」ではなくで、心から楽しんでうたっている。

<野ばら> 客席で、老婦人が一緒に口ずさんでくれている。愛されている歌であることを実感。3階の客席の奥にハプスブルグの昔から住んでいる、由緒正しきダニの「ダニー君」に向けて、心を込めて歌う。

<アベマリア> 幸せにひたりながら次の曲のために隊形移動をしているさなか、突然客席から大きな声。あとで、病気の男性が発作を起こしたらしいと聞いたのだが、その瞬間、会場の空気がざわっとばらけて集中力が途切れてしまった。でも、何があったって動揺しないで歌いきるのが永先生のエーヴィゲ。会場を気にしながらも、もう一度気持ちを集中させて歌っているうちに、客席の気持ちも戻ってきてくれたようだ。

 歌い終わって、再び大きな温かい拍手に包まれる。全員が退場するまでずっと拍手を送ってくれた。ステージを降りた途端、涙腺が緩んでくる。演奏の細かいことは先生のご高評を待つことにして、とにかく、幸せな時間だった。たぶん、観光でウィーンに来て客席でコンサートを聴いていただけでは、今日ここで感じた、ウィーンの人たちの音楽を楽しむ人に対する懐の深さや温かさはわからなかったのではないかな。

 一人も欠けることなくステージに立てたこともうれしい。実は、メンバーの多くが体調不良だった。日本を発つ前から、演奏会の準備、休みを取るための仕事の調整、家を留守にするための準備、もろもろで忙しく、そのうえでのウィーンまでの長旅・・・今日は気力だけで立っている状態の人もいた。でも、本番に対する強い気持ちで、全員で、この演奏をすることができた。

 そして、忘れてはいけないのが、これまでの周到な準備。永先生とスタッフのみなさんが練りに練ったプログラムと演出が、ねらったとおりにウィーンの人たちに楽しんでもらえたのだ。涙腺、決壊。

 演奏会の最後に、4団体+地元のシューベルトブントとで「美しく青きドナウ」を合唱。楽譜のドイツ語から目が離せない人が多いために、テンポの大きな揺れについていけず、ダブルコーラスのように歌がずれる。でも、だんだん指揮者と合唱がかみ合ってきて、盛り上がってくるとともに、客席の表情も穏やかになってくる。ウィーンフィル・ニューイヤーコンサートのラデツキーマーチのようにとはいかないけれど、最後のクライマックスでは、ホール中に一体感が。日本での練習中に永先生から「会場の雰囲気や現地の指揮者の指揮を楽しむためにも、楽譜から目を離せるところを作っておくように。特に、クライマックスの部分は暗譜しておこう。」と言われていた。本当にその通りだった。(あまりに楽しくて、あやしいドイツ語のまま楽譜から離れてしまったのだけれど・・・)

 演奏が終わると、スタンディングオベーションで大喝采。舞台の下まで寄ってきて、退場する私たちに手を振ったりお辞儀をしたりしてくれる老夫婦もいる。「グッジョブ」とジェスチャーをしてくれる人もいる。舞台袖では指揮者のブルッカーさんが涙を浮かべて迎えてくれ、シューベルトブントの皆さんと「一緒に歌えてよかったねー」と握手。


 外へ出ると、もう暗くなっていた。 
 客席から出てきた人 が、「よかったよー」と声をかけてくださる。


 ステージ衣装のまま、レセプション会場のインターコンチネンタルホテルに移動。

 昨夜我慢したアルコールを解禁。演奏会の後のワインは、なぜこんなにおいしいのだろう。



ウィーン市の担当者の方
シューベルトブント指揮者のブルッカーさん。




 各団の指揮者にウィーン市から記念品贈呈。


 シューベルトブントの皆さん。



合唱団ごとに1曲ずつ披露。エーヴィゲは、日本の団体の最後に「ウィーンわが夢のまち」を宴会バージョンで歌う。シューベルトブントの皆さんも一緒に歌ってくれる。彼らの愛唱曲なので、大いに盛り上がる。本番のプログラムでこの曲を歌った宮崎の合唱団も、会場の後ろのほうで歌ってくれている。永先生は会場中を指揮することに!楽友協会のステージでこの曲を歌えなくなったときは残念だったけれど、レセプションでこうして現地の人たちと声を合わせるという、貴重な体験につながったのは素敵だ。


 シューベルトブントの皆さんは、湯山昭の「歌声はささやく」を日本語で歌ってく ださった。またまた会場中で「おやすーみなさい♪」の大合唱。


 最後はキャンプファイヤーのように大きな輪になって歌い、今日の感動を分かち 合った。

(Y.Y)






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